ライフ

【著者に訊け】逢坂剛氏 13年ぶりの完全新作『墓標なき街』

【著者に訊け】逢坂剛氏/『墓標なき街』/集英社/1800円+税

 残虐非道な殺人鬼・百舌こと、〈新谷和彦〉は死んだ。主人公〈倉木〉や、〈津城〉も死んだ。シリーズ第4作では『よみがえる百舌』すら死んだ今、標的の首筋を〈千枚通し〉で一突きにし、現場に〈黒褐色の地に黄褐色の筋のはいった〉羽根を残す手口だけで、〈百舌復活〉を確信させてしまうところが、逢坂剛作・百舌シリーズの凄さであろう。

 倉木亡き後の〈大杉〉や〈美希〉の物語を切望する声は今も絶えず、昨年公開の映画『劇場版MOZU』も大ヒットを記録する中、本書『墓標なき街』は書かれた。序章となる公安小説『裏切りの日日』から34年、百舌が初登場する『百舌の叫ぶ夜』から約30年が経ち、前作『ノスリの巣』からは13年ぶりの、最新作刊行である。

 生き残った大杉や美希、東都ヘラルド記者〈残間〉らが追うのは、ある人物のタレこみに端を発した鉄鋼商社の〈不正武器輸出〉と、なおも出没する百舌の影。百舌も黒幕も、誰かが死ねば次の誰かが現われ、悪は決して、絶えることがない。

 ドラマ及び劇場版では、孤高の公安警部・倉木尚武を西島秀俊、後に探偵となる元捜査一課刑事・大杉良太を香川照之が好演。真木よう子の旧姓・明星美希役や池松壮亮のダブル新谷役も、広く話題を呼んだ。

「私は脚本や配役にも一切口は出さないし、映画人が活字をいかに料理するかに、むしろ興味があるんです。特に百舌は昔から映像化は難しいと言われてきたし、手離れした子供が思いがけず出世したような感覚もある。昔、横溝作品に映画で火がつき、70代で再び脚光を浴びたことがあるけど、私ももう当時の横溝さんと同年代だもんなあ……」

 初著書『裏切りの日日』の刊行当時、公安はおろか警察の暗部自体、描かれることは少なかったという。

「要は人のやらないことをやりたがるのが作家でね。ただし私はそれを資料と想像力だけで書いてきたし、書斎から一歩も出なくても書けるのが作家。小説上のリアリティと現実的であることは、全く別物ですから」

 例えば残間からの依頼で疑惑をタレこんだ匿名人物を尾行中、美大講師の傍ら大杉の助手を務める〈村瀬〉と、警視庁生活経済特捜部に勤務する大杉の娘〈東坊めぐみ〉が、それぞれ客を装って入る五反田の洋食店〈グランエフェ〉。

 密告者が鉄鋼メーカー〈三京鋼材〉の〈石島〉だと突き止めた大杉たちは、同社を内偵中の娘とその相棒〈車田〉とつかず離れずで監視を続けていたが、注目はモデルの洋食店に出口が2つあり、どちらの路地にも出られる構造に、氏が着目した点だ。

「五反田に実際ある洋食店であの構造を見た時に、これは尾行対象がどちらに出るかわからないし、ヘタするとまかれるぞ、ってね。他にも実名で書いた銀座のとんかつ屋・不二は本当に安くてうまいし、本筋とは関係ない会話とか遊びが、実は結構、大事なんです」

 読者からすれば、あれほど父親に反発していためぐみが警官になり、洋食屋で隣り合わせた村瀬に〈おいしいですね〉とさりげなく言える女性に育ったことが、身内のように嬉しい。また探偵業が板についた大杉と、夫・倉木の死後公安に戻った美希も、互いの家を行き来する仲ではあるらしい。

 ある日、大杉と別れて帰宅した美希は何者かに襲われる。首筋を刃物がかすめた瞬間、たまたま後を追った大杉に助けられたが、現場に残された羽根にゾクリとさせられるのは、何も彼らばかりではない……。

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン