大企業のトップが退任後に就くことが多い「相談役」。社長や会長を支える貴重な役割を担うという相談役には、訪日外国人が1900万人突破という現在の日本の状況はどう見えているのか。JR東海の須田寛相談役(84)の目には、日本政府の外国人観光客を取り込むための取り組みはまだまだ不十分に映る。
「日本の年間宿泊人数は約4億人(国内延べ宿泊者数)といわれていますが、そのうち9割が日本人。外国人はまだまだ少ない。また、もっと外国人観光客に来てもらうためには、従来の物見遊山的な観光だけでは限界があります」
では、どうすればいいのか。“旅行業のプロ”の立場から、須田相談役にアドバイスをお願いした。
「いまある観光資源の見方を変えて、産業・ものづくりという角度からフィルターを当ててみると、同じものでも違った角度で見えてきます。例えばただお寺を見れば、『宗教の礼拝所』という面しか見えませんが、建築物として着眼すると、そこにはまた別の興味が湧いてくる。外国人、とくにアジアの人々は日本を産業国だと思っていますから、家電製品や自動車がどこで、どんなふうに作られているのかを見てみたい。それは人間の本能なんです。
トヨタ自動車の工場には年間35万人の見学者がいて、うち5万人は外国人だそうです。爆買い客のなかには、“日本の家電工場を見たい”という潜在的な欲求が必ずあるはずです」
一方、五輪やサミットなどがあると、すぐに観光客増加につながると思いがちだが、「その考えは甘すぎる」と指摘する。
「1964年の東京五輪当時、私は国鉄の営業局の課長補佐で、五輪までに新幹線を間に合わせようと皆が必死だった。ところが五輪開催期間中、実際の乗客数は目標よりはるかに少なかったんです。
日本人はみんなテレビを見ているから動かないし、来日していた外国人の観光先も東京かせいぜい周辺の箱根・伊豆まで。2020年の五輪も、その前後にどうやって客を呼ぶかの施策を考えておかないと、肩透かしを食らいます」