2015年、日本創生会議(増田寛也座長)が発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」によれば、2025年に東京圏の75歳以上の後期高齢者175万人増加し、施設に入れない介護難民が13万人発生するという。この危機を乗り越えるために提示された解決策の一つに、地方への介護移住がある。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、地方への介護移住を地方再生の起爆剤にするための課題を解説する。
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経済成長がほとんど望めない現代において、介護は地方での雇用拡大として期待できる。介護スタッフの数は2000年の55万人から、現在150万人まで増えた。それでも足りない。今後の10年間で100万人近く必要と言われている。
だが、数を増やせばいいというものでもない。介護や医療は、一人の人間に向き合うことから出発する。その病人にとっての正解は何か、手探りで探していくことが、いい介護につながっていく。
しかし、目の前の人間を置き去りにした介護は、介護の本質から離れ、合理的なルーティンワークになってしまう。介護の「商品化」だ。そんな介護が利益を出すのは初めのうちだけ。いい介護が提供されなければ利用者は減り、働く人も心身ともにストレスを抱え、やりがいを失っていく。
川崎の有料老人ホームで入居者が相次いで転落死した。第三者調査委員会が、同じ系列の275施設を調査したところ、虐待が53施設で81件あったという。窃盗などもあった。
いい介護を実践できる人材を育てていくことは、地方のまちづくりの中心的なテーマになり得る、とぼくは思う。同時に介護職の待遇をよくすれば、人材も集まりやすい。介護職の給料は平均月23万円で、全産業平均と比べて9万円も低いといわれるが、この差を解消し、全国一介護職が働きやすいまちをつくっていけば、介護を担う若い世代も、介護が必要な高齢者世代もこぞって移住してくるのではないか。
二つ目の課題は、高齢者だけでなく、若い世代にも移住したいと思えるような地域をどうつくるか。
内閣府のデータでは、20代の若者の35.8%が、地方へ移住してもいいと考えている。仕事があって、子育てや生活がしやすい環境があれば、多少収入は減ったとしても、地方移住は望まれているのである。
高度経済成長期は、経済優先の価値観が生活の真ん中に鎮座していた。バブルがはじけ、成長経済から成熟経済へと移行した現代、多様な価値観を見出そうとする人が増えてきたせいだろう。
すでに多くの地方自治体が移住支援策を行なっている。2014年には地方移住支援策を利用して移住した人は1万1700人を数える。
土地の魅力は、よそから来た人のほうが気づきやすい面もある。この町には海がある、里山の暮らしがある、きれいな星空がある、というのと同じように、「高齢者が明るい」「高齢者の知恵を継承できる」というのも、町の資源になるかもしれない。