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介護移住を地方再生の起爆剤にするための3つの課題

 三つ目の課題は、人と人がつながる仕組みをどうやってつくるかだ。

 諏訪中央病院では、たくさんのボランティアがかかわっている。25年ほど前から病院の庭づくりをし、季節ごとにきれいな花を咲かせてくれている。このグリーンボランティア約50人のうち、8割が移住してきた人たちだ。緩和ケア病棟で、末期がんの患者さんや家族の話し相手になったり、お茶をいれてくれたりするホスピスボランティアもいる。

 13年前、東京から移住してきた松崎さんはホスピスボランティアとしてかかわった女性のことが忘れられない。その女性はフランス料理店のオーナーで、末期がんだった。彼女も移住者だった。

 料理人として生きてきた証と、支えてくれている人へのお礼のため、彼女はホスピスの小さなキッチンで、フレンチのフルコースを作りたいと考えた。その思いをかなえようと、松崎さんらボランティアと病院のスタッフ、彼女の夫が支えた。

 末期がんの彼女には、あまり体力が残っていなかった。だが、メニューを決めるところから始まり、材料選び、下ごしらえ、調理……と楽しそうだった。彼女は、フルコースをつくって間もなく亡くなった。だが、人生の最後まで充実した時間を過ごすことができたことは、一ボランティアの松崎さんの心の支えにもなっている。安心とは、人と人とのつながりがもたらすのだろう。

 WHO(世界保健機関)のマーガレット・チャン事務局長は、「高齢者への出資はコストではなく、『投資』と考えるべき」と興味深い発表をしている。高齢者は、税金を払い、経済活動に参加することで、世界規模で7兆4000億円のプラス効果を生み出している。若い人たちの精神的な支えになるなど、お金には換算できない役割も果たしている。

 世界でも先頭を走る超高齢社会の日本。介護破綻というピンチを、どうやってチャンスに変えることができるか。地方のユニークな視点と手腕に本気で期待したい。

●かまた・みのる:1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受け止める練習』。

※週刊ポスト2016年2月5日号

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