【著者に訊け】額賀澪氏/『タスキメシ』/小学館/1300円+税
青山学院大学の完全優勝に沸いた、今年の箱根駅伝。が、『タスキメシ』の著者・額賀澪氏(25)は「やっぱり3部作の映画は3作全部見ないと!」と言う。
「つまり大学駅伝は出雲・全日本・箱根の三大駅伝を全て見るのがお勧めで、本当は都大路(高校)や実業団も見てほしい。ある選手の走りを高校、大学と長いスパンで追うのもひとつの物語として面白いし、都大路のライバルが大学や社会人では同じチームになったり、縦糸と横糸が織りなすドラマがまたイイ。例えば『カレーは美味しいから好き』としか言えないように、理由を聞かれても困るくらい、駅伝が好きです!」
箱根駅伝を夢見ながら膝を故障中の神野向(かみのむかい)高校エース〈眞家早馬〉と弟〈春馬〉、孤高の料理女子〈井坂都〉を軸に、〈諦める勇気〉と〈続ける恐怖〉の狭間で揺れる彼らの再生を描く本作は、友情のあり方ひとつとっても従来の青春小説とは何かが違う。彼らもまた大人の事情に翻弄され、ままならない今に成す術もないが、〈心配なんてされたくない〉し、一番裏切りたくないのは自分なのだ。
昨年、小学館文庫小説賞と松本清張賞のW受賞という快挙をやってのけた驚異の大型新人は、押しも押されもせぬ平成2年生まれ。
「私は数を撃たなきゃ当たらないと思って書いてきただけで、たまたまです!」
大の駅伝小説ファンでもある額賀氏が高校時代から構想を温めてきたという最新作では、〈駅伝×料理男子〉という切り口が斬新だ。
「何か面白い切り口はないかなとずっと考えてきて、私は食べることも好きだし、料理が出てくる駅伝小説があってもいいかなって。特にアスリートにとって食事は大事な要素ですし、膝の故障で陸上を諦めかける早馬や、料理をすることで救われてきた都の造形が、まずは浮かびました」
右膝を剥離骨折して以来、リハビリにも身の入らない早馬は、ある日、生物教師の〈稔〉から通称〈稔の畑〉でアスパラの収穫を手伝わされ、それを調理室に届けるよう頼まれ都と出会う。口も態度も悪い彼女は、〈アスパラと里芋と豚肉の照り焼き炒め〉等々を手際よく完成させるが、これが抜群に美味い。
眞家家では母や祖母の死後、家事は父と早馬で回してきたが、都が持たせてくれた料理を野菜嫌いで〈ガキんちょ舌〉な弟は喜んで平らげ、以来早馬は都の指導の下、家族の食事や弁当作りに居場所を見出していく。
しかし、県予選で強豪・水堀学園を破り、都大路に出場するべく練習に励む春馬や部長の〈助川〉には早馬が逃げているとしか思えない。そんな早馬に、両親の不仲や周囲の同情に傷ついてきた都は〈逃げたっていい〉〈あいつが自分で気づくまで、気が済むまでやるしかない〉と料理を教え、一方で稔は、都が〈今は誰かと料理をした方がいい〉と思って早馬にアスパラを届けさせたのだった。