彼女にあうのはむしろ、『今日は会社休みます』(日本テレビ系・2014年)の主人公のような、ひっこみ思案でオドオドしていて人生に不器用で、しかし夢があり自分らしく生きたいと強く願うOL──そんな等身大の役柄でこそ、役者としての資質が存分に輝き出すタイプでは? 現代を生きる30代OLをあそこまでボクトツでちょっと鈍くさくリアルに演じ切る役者は、綾瀬はるかをおいて他になかなかいないのでは?
太陽のように自らぎらぎらとエネルギーを発したり、演技の巧さで魅せたりするタイプとは違う。憑依型でもない。しかし、綾瀬はるかは、彼女にしかない独特な匂いを放つ。真っ直ぐな潔さ、佇まいの美しさ。誰かの光を得て輝く、白い月のような役者。
一方、『精霊の守り人』はすべてが虚構で構成されている壮大なファンタジー。その世界の中ではむしろ、「なりきり系憑依型役者」の方が力を発揮するのかもしれない。例えば二階堂ふみ、高畑充希、仲間由紀恵……少女から老女まで誰にでもなりきって自分なんかすっかり消してしまえるような、シャーマニスティックで切れ味の良い役者たちの方が。
綾瀬はるかを批判することが目的ではない。そうではなくて、作品と役者のとりあわせには「適材適所」というものがあるということ。公共放送が莫大な費用と時間をかけ大河ファンタジーを制作するのなら、キャスティングについてもっと練る必要があったのかも……と思っていた矢先にこんな記事を見た。
「『精霊の守り人』 綾瀬はるかのバルサ、小学生を魅了」という見出し。「原作シリーズが小学生の“必読書”になっていることもあり、「4~12歳」や読書感想文を書いた経験がありそうな「13~19歳」によく視聴された」(「オリコンスタイル」2016.3.25)。
なるほど、「小学生にウケる仕上がり」か。それはそれでいい。でも、NHKが総力を挙げて制作する90周年記念超大作だとすれば。大人の視聴者も説得して欲しい。