メイクやファッションは好き嫌いがある。濃すぎたり、変な格好をしていればいろいろ言われるし、逆に素敵だったら憧れの対象になる。
「あの人、顔変わったよね」
美容整形がメイクやファッションのように誰にとっても身近なものになったことで、いつしかほとんどすべての女性たちに、この“整形センサー”が備わった。コラムニストの犬山紙子さんは、そこにある女性心理を「嫉妬」だと指摘する。
「私だってヒアルロン酸入れたらきれいになるはずなのに、しないだけよって。でもあなたはしたのよねっていう妬みですね。それは男性が、ヅラに反応するのと同じですよね。先にコンプレックスを解消したことへの“ずるい”という嫉妬心があると思うんです。
一方で見下してもいますよね。それは例えばクイズ番組で、タレントが変な解答をしたときに、後になってそれを友達と笑い話にする。“あの人、ああいう解答してた”って。そのとき、自分の方が上というような気持ちがどこかにあると思うんです。整形した人が下で、整形してない人が上ということなんてはないんですけどね。なんだ、あの人きれいだと思っていたけどコンプレックスあったんだ、というちょっとした安心感もあるんじゃないでしょうか」
青山渋谷メディカルクリニック名誉院長で精神科医の鍋田恭孝さんも、「あの美しさは作り物であって、本当にきれいなものではないから価値はない」という安心感から、みんなで話したくなるのではないかとみている。
「でも、そういうことを口にする女性ほど、美容整形に興味があったりするんです。一歩踏み出せない美容整形を先にやって悔しい、っていう嫉妬心もあるでしょうし、同時に美容整形をしてないことに対する優越感みたいなものもある。時には一歩踏み出せない自分は情けないという思いもあったり、複雑でしょうね。でもやっぱり、“私もきれいになりたい”という欲望が共通してあると思います」
千葉のデパートでパートをしている菅野景子さん(61才)は、昨年、還暦の同窓会での思い出を振りかえる。
「男たちが『あれ、誰だ!』と色めき立った女が2人いたんですよ。1人は素人離れした和服姿で、もう1人は全身からお金持ちオーラが出まくり。2人とも中学時代は、“そういえばいた、かな”ってくらい目立たなかったんですけどね。田舎の60才といったら、老人枠の人もいるというのに、2人はどう見ても50才前半。『えーっ、なんでそんなに若いの!』と、絶賛されるたび、顔に赤みがさして、ますますきれいに見えました。でもそのときの答えが笑っちゃう。誰も何も言わないのに、『やだ、何にもしていないって。ふだんは化粧もしないけど、今日は久しぶりに張り切っちゃった』と言うんですよ。誰も『いじった』なんて聞いていないのに。2人が帰ったあとは女たちで『結局、お金よねぇ』と、大はしゃぎでした」