北海道に住みたい、という夫の一言で、2013年4月から1年間、大雪山国立公園内のトムラウシ山のふもとで家族5人、大自然に囲まれて暮らした。受賞作の『羊と鋼の森』は、この経験があったからこそ生まれた作品である。
トムラウシは、アイヌの言葉で「花の多い場所」を意味する。「カムイミンタラ(神々の遊ぶ場所)」とも呼ばれる美しい土地は、家から最寄りのスーパーまで37km、テレビの難視聴地域で、小中学校の生徒数は宮下家の3人を入れて15人だった。
「いきなり夫が山の中に住みたいと言い出したときは、“ありえない”と思いました。長男が中3になる直前で、受験を考えたら無理だと思ったんですけど、子供たちが“あ、いいね”と言ったんです。それを聞いて私も、“そうかー、いいのかー”って」
宮下さんの結婚は、彼女の「ひとめぼれ」だったとエッセイに書いている。
「ちょっと恥ずかしいですけど、結婚して“当たりだった”とも思います。私が小説を書くことを彼は全面的に“いいね”と言ってくれるので、彼のやりたいこともできるだけ尊重したい。実際に面白いことも多くて、私1人だったら気づかなかったことを、夫からも子供たちからもいっぱい教えてもらっています」
※女性セブン2016年5月12・19日号