大腸がんを新たに発症する人は、国内で年間約10万人といわれる。食生活の洋風化にともない、大腸がんの患者は増加傾向にあり、がんの部位別死亡数をみると女性では第1位、男性は肺がん、胃がんに次いで3位となっている。しかし、大腸がんは早期発見で手術など適切な治療を行なえば、ほぼ100%近い治癒率といわれる。
発見が遅れる原因として考えられるのが、大腸内視鏡検査の受診率の低さだ。40代以上で大腸検査を受けるのは4人に1人と、まだまだ少ない。検査を受けない理由として挙げられるのが、内視鏡を腸内に入れる際の痛みや不快感だ。新宿大腸クリニック(東京都渋谷区)の後藤利夫院長に話を聞いた。
「大腸検査は、初めに肛門から一番奥の盲腸まで内視鏡を挿入し、戻ってくるときに観察やポリープ切除を行ないます。従来は挿入にあたり、空気を入れていました。空気が入りすぎると腸が膨張し、膨らんだ風船が折れ曲がるように腸も折れ曲がります。これが痛みの原因となるのです」
腸内は便があっても、それを感じないことからもわかるように、内側の粘膜はほとんど感覚がない。ところが、腸が張ったり、膨らんだりして、ある強さ以上の力がかかると激痛を感じ、それ以上の力が加わると腸が破ける。大腸検査でも空気が入り過ぎると腸が膨れて痛みを感じるのだ。
そこで後藤院長が開発したのが、水浸法だ。これは内視鏡の先から少量の水が出ることで、内視鏡が腸内をスムーズに進む。摩擦が減少するのに加え、水により内視鏡に浮力がかかり、短時間に肛門から盲腸に到達する。
検査では腸が数字の7の形になることが必要だ。これで盲腸に到達した内視鏡が戻るときに、ゆっくり観察することが可能となる。院長は内視鏡に接続できる専用のポンプを開発し、特許を出願した。現在は特許を開放し、メーカーが自由に製造できるようになっている。