さらに、同筋は「このような米台間の軍事関係をテコにして、日台間でも軍事上の密約が存在する」と明かす。台湾は島国だけに、中国の軍事的脅威に対処するには多くの潜水艦を配備したいところだが、台湾への最大の武器供給国である米国の潜水艦は大半が原子力潜水艦だけに、台湾は使いこなせない。このため、蔡英文は日本の海上自衛隊が保有するディーゼルエンジン2基搭載の通常動力型潜水艦「そうりゅう」に狙いを絞っているというのだ。
とはいえ、日台双方の直接交渉による売買契約締結は事実上不可能なだけに、「日本が米国にそうりゅうの技術を売り、さらに米国が台湾にその技術を渡すという『米国仲介型』の取引が考えられている」と同筋は明かす。
これらの交渉は実現しても極めて秘密性の高いものであり、公表は難しい。さらに、いま米国では大統領選が行われているだけに、密約が円滑に実行されるかどうかは極めて不透明だが、「蔡英文は中台関係で台湾が主導権を握るために、日米という外交カードを手にし、国際環境を味方につけた外交戦略を駆使しようとしている」と蔡増家・政治大学国際関係研究センター研究員(教授)は指摘する。
●そうま・まさる/1956年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。産経新聞外信部記者、香港支局長、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員等を経て、2010年に退社し、フリーに。『中国共産党に消された人々』、「茅沢勤」のペンネームで『習近平の正体』(いずれも小学館)など著書多数。近著に『習近平の「反日」作戦』(小学館)。
※SAPIO2016年6月号