朝日新聞(3月13日付)に掲載された〈妻を「夫源病」にしないためには〉という投稿が話題だ。投稿者は神奈川県に住む58歳の精神科医。うつなどストレス症状を訴える60代女性の多くが夫の定年退職をきっかけとする「夫源病」だったというのだ。
夫源病とは、夫が毎日朝から晩まで家にいる生活が負担となり、妻がめまいや耳鳴りなど様々な心身の不調をきたすことを指す。そもそもは、更年期外来を開設する医師で大阪樟蔭女子大学教授の石蔵文信氏が命名した概念である。
投稿では〈夫はいざという時の頼りになっても、ふだんは面倒な、うっとうしい存在である〉とし、妻を夫源病にしたくなければ夫は〈なるべく家を空け〉、〈せめて昼食くらいは自分で支度すること〉とアドバイスしている。
反響は大きく、4月13日の朝日の投稿欄では〈身に覚えあり、防止に努力する〉(78歳・無職男性)、〈お互い「ちょっと留守」がいい〉(67歳・主婦)など男女問わず様々な意見が上がった。
しかし、ここではもう一つの重要な事実に触れられていない。定年退職後の夫婦生活は、妻だけでなく夫にとっても非常に大きな精神的負担になっているということだ。
女性の夫源病と同様の症状に悩まされるという男性が急増している。昨年、定年退職を迎え、第二の人生を謳歌するはずだったA氏(66)もその一人だ。
「四六時中一緒だからアラが目につくのでしょう。毎日、些細なことで妻に注意されてばかり。“トイレの蓋は閉めて”“オシッコは座ってして”から始まり、“カーテンを開けたらきっちり端にまとめて”なんてことまで指摘される。たまに気を利かせて洗い物をしたら“こんな洗い方じゃダメ。結局、二度手間じゃない”と叱られて……。
何をいわれるか気が休まらず、惨めな気持ちが続いていた。すると、いつしか朝起きると動悸が出て息苦しくなり、めまいがするようになった。妻が近くにいるだけで汗をびっしょりかく。悩んだ末、今は心療内科に通っています」
企業戦士としてモーレツに働いていた現役時代には滅多に体調を崩すことはなかったA氏だが、退職したら病院通いになってしまったのだから皮肉なものだ。