●「波平に借金がないか」をまずチェック
「姉さんもワカメも“忙しい”っていうばっかりで、何もしない。とにかく要らなそうなものから捨てていこう」──物が散らかり雑然とした家を前に、カツオはそう考えた。男手ひとつの状況であれば、有力そうな選択肢だが、渡部氏によればこれは絶対NGだ。
「財産を処分すると、その段階で、『すでに遺産相続を受けている』と見なされる可能性があります。その場合、問題になるのが、後になって波平の借金が発覚するケースです。相続放棄ができなくなってしまう」
亡くなった親に借金があっても、相続放棄をすれば借金を背負わずに済むが、その手が使えなくなるのだ。
「ゴミを捨てる程度なら問題ないのですが、もし気付かずに骨董品など価値のある財産を処分してしまった場合、『財産のすべてを相続する』意向だと見なされます。この『財産』には借金も含まれるので、波平さんが家族に借金を隠していた場合、カツオさんは思わぬ負債を背負い込むことになります」(みずほ中央法律事務所の三平聡史・弁護士)
しかも、片づけにタッチしていないフネ、サザエ、ワカメが相続放棄すれば、借金はカツオ一人で返さなくてはならなくなる。「ひどいよ姉さん……」と愚痴っても取り返しはつかない。兄弟とて相続では非情な決断が珍しくないのだ。
では、波平の借金を調べるにはどうすれば良いのか。三平氏が続ける。
「貸金事業者、クレジット事業者等からの借金は、信用情報機関である『日本信用情報機構(JICC)』などで開示請求ができます。滞納通知が来るかどうか様子を見るのも有効です」
●「片づけ業者に任せればいい」に待った!
幸い波平に借金はなかったことが確認できた。四十九日までには部屋を綺麗にしたいと思っているカツオだが、相変わらずサザエとワカメは非協力的で、しまいにはサザエが「ゴミばっかりなんだから早く処分しましょうよ。今はやってくれる業者もあるんだし」と言い出す。カツオもそれで仕方ないかと首をタテに振る……が、渡部氏はこれにも待ったをかける。
「業者に頼むと処分費用がかさむうえ貴重な財産をゴミとして捨てられるケースがあります。美術品やコイン、切手は専門業者に鑑定してもらうと高値がつくこともある」
アニメのなかで、波平は趣味で骨董の壺を買うものの目が利かず、家族のヒンシュクを買ってばかりいた。しかし、家族も詳しくはないわけで、中にはお宝が眠っている可能性があるのだ。
※週刊ポスト2016年6月10日号