日本は国民皆保険制度が機能しており、高額療養費制度のおかげで経済的な格差に関わらず、多くの人が平等に医療を受けやすい。しかし、最近の新薬にはべらぼうな費用になるものが少なくないため、国の医療費負担が大きくなってこの保険制度が崩壊するのではと鎌田實医師は危惧している。鎌田医師は、医療の値段についても感じている疑問についてアメリカの事情も交えて解説する。
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医療の値段とはいったい何なのだ、と感じる治療がある。再発・難治性の急性リンパ性白血病の治療として期待されているキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞療法(CAR-T細胞療法)である。
白血病細胞を特異的に認識する抗体の遺伝子と、T細胞の活性化に必要な分子を結合させた遺伝子を、患者さんの末梢血から取り出したT細胞に導入する。それを2~3週間かけて増やし、再び患者さんの体内に戻すと、白血病細胞をアポトーシス、自死させることができる、というものだ。患者さんのT細胞からつくるので、拒絶反応も起こらない。
アメリカでは、このCAR-T細胞療法が、一回5000万円以上で行なわれはじめているという。日本ではまだ認可されていない。
難治性の白血病の女の子ゆめちゃんは、骨髄移植をしたが再発した。ほかに有効な手立てがない。CAR-T細胞療法に期待し、渡米を決意した。アメリカの医療施設から要求されたのは、なんと前金として1億3000万円。募金により目標額は集められたが、ゆめちゃんの命は持たなかった。2歳だった。
名古屋大学医学部附属病院小児科を今年3月、定年退官した小島勢二前教授は、このCAR-T細胞療法を研究してきた。
小島先生によれば、すでに中国でも行なわれており、大人で60万円、子どもで30万円程度で行なわれているという。日本でも、このまま研究が進めば、おそらく50万円程度でこの免疫細胞を培養できるという。もし、実現すれば、アメリカの100分の1の値段になる。いったい医療の適正価格というのは、何なのだろうか。