日本では、薬価は中医協(中央社会保険医療協議会)が決めている。アメリカでは製薬会社が独自に決めている。
昨年夏、元ヘッジファンドマネジャーが経営する製薬会社チューリング・ファーマシューティカルズが、ある薬を55倍に値上げした。その薬とは、エイズやがんなどで免疫力が低下している人に使われる感染症治療薬ダラプリムで、62年前に開発されたもの。権利を買い取ったこの会社が、一錠1620円から9万円に値上げ。開き直った経営者は顰蹙を買ったが、後に別件で逮捕された。
基本的に、「医療」と「経営」は相容れない部分がある。だが、これから日本にも「経営」の大波が襲ってくる。TPPが妥結すると、アメリカの企業経営を侵害することはつらくなり、アメリカに近い値段の薬が入ってくる可能性がある。どうすれば、日本の宝である医療制度を守っていけるのだろうか。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。
※週刊ポスト2016年6月10日号