「例えば僕が祖父の身体に残る弾痕に想像した痛みや皮膚が焼ける匂いは、歴史や物語からは漉し取られてしまう。それでも僕がその生々しさを感じて育ったことは動きようがないんです。

 また自分の罪に囚われていた青年が誰かを救い、彼の愛犬〈カールハインツ〉が図らずも彼を死に至らしめたように、善意や無辜の行為が本人の意識とは関係なく働く。そういうことも全部ひっくるめて僕はこの終末装置で相対化したかったんです」

『罪の終わり』とは、罪の終わらせ方をめぐる物語の発見と言うこともできよう。発見者は罪の意識に苛まれた人々だが、良くも悪くも生きるためなら何でもする人間を、物語を愛してやまない東山氏は断罪するより、書く旅を選ぶのである。

【プロフィール】ひがしやま・あきら:1968年台湾生まれ。5歳まで台北で育ち、9歳から福岡県在住。西南学院大学大学院修士課程修了。2002年『タード・オン・ザ・ラン』で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞、翌年『逃亡作法―TURD ON THE RUN』でデビュー。2009年『路傍』で大藪春彦賞、2015年『流』で直木賞。『ブラックライダー』は「このミステリーがすごい! 2014」3位、「AXNミステリー闘うベストテン2013」1位等に選出。183cm、72kg、B型。

■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光

※週刊ポスト2016年7月8日号

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