「今年こそは……」―毎年そう願いながらも、優勝から遠ざかって四半世紀。そんな広島カープに最大のチャンスがやってきた。2位に9ゲーム差を付ける独走態勢(6月30日現在)。しかし球団関係者とファンの脳裏には、20年前、「ミスタープロ野球」に起こされた奇跡のトラウマが焼き付いている。1996年、当時の巨人・長嶋茂雄監督が「メークドラマ」と名付けた大逆転劇だ。
6月末の時点で首位を独走していた広島は、巨人に最大11.5ゲーム差を引っくり返されて優勝を逃したのである(結果は3位)。広島にとっての大失速、巨人にとっての「メークドラマ」のきっかけと語り継がれるのが、1996年7月9日の北海道・札幌の円山球場で行なわれた直接対決だ。
シーズン序盤、巨人はあり余る戦力が機能せずにいた。しかしこの試合で大爆発。川相昌弘の満塁弾を挟んだ1イニング9連続安打(プロ野球タイ記録)を含めた猛攻で10-8と打ち勝った。
翌10日の同カードもガルベスの好投で3-1と巨人が連勝。これでカープの歯車が狂い始めた。
巨人は、前半の不振をよそに、7月から松井秀喜のバットが大爆発。8月には月間新記録となる34打点を叩き出す活躍で連続月間MVPに輝いた。低迷していた投手陣も調子を取り戻し、7月は13勝5敗。翌月は19勝7敗、9月も10勝6敗と驚異的なペースで貯金を積み上げ、メークドラマは大団円を迎えた。
「この年の巨人は桑田真澄をケガで欠いていたものの、斎藤雅樹、ガルベスを軸に槙原寛己、木田優夫ら投手陣、松井、落合博満を中心にした攻撃力がマッチしており地力はあった。特に広島から移籍し不振を極めていた川口和久をリリーフに転向させた長嶋采配が当たった」(当時巨人番だった元スポーツ紙記者)
追う巨人に「メークドラマ」の脈はあるのか。