俳優の親子や兄弟が共演することは珍しくない。にもかかわらず、佐藤浩市が父・三國連太郎と本格的に共演したのは映画『美味しんぼ』(1996年)で主人公・山岡士郎を演じ、父でありライバルでもある海原雄山役の三國と向かい合ったときだけだった。映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』から、俳優として大先輩である父との共演の思い出を語った佐藤の言葉をお届けする。
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佐藤浩市の父親は映画史にその名を残す名優・三國連太郎だ。
「かつての映画界では、役者は映画会社に従属していました。そういう中において、三國連太郎という人は勝手に他社の映画に出るんですよね。それで締め出されて何年か仕事をしていない時期も現実にありました。
演者であることを優先するがゆえに、ルールを破れる人を子供の頃から見てきたので、僕としてもやっぱり、演じるということは己に正直であることなんだと思っています。ただ僕は苦労知らずなものだから、それに対する表現の仕方がちょっと稚拙だったところはありますが」
2004年のNHK大河ドラマ『新選組!』では芹沢鴨、公開が控える映画『花戦さ』では千利休と、かつて三國が演じた歴史上の人物役を演じている。
「僕には『飢餓海峡』はできない。自身が同じ時代の飢餓を経ている、三國さんのあの表現は自分には無理です。
三國さんの演じた芹沢鴨は、自分でそうしたくないと思ってもそうしてしまう、抗いようもない自分を抱えていて、しょうもない人間ぽさがあった。それが、芹沢鴨という人間を通して感じている僕自身と同じだったので、話が来た時に『やりたい』と思いました。ほとんど方向性は一緒になっちゃうんだけど、一緒な中での自分なりの芹沢鴨をやってみたいと思いました。
利休の時は表千家にお茶を習いに行ったのですが、その時に茶碗のように丸く、自分がいたいと思った。背中だけではなく、全体の丸さをお茶の中で表現できないかな、と。そうしたら、指導の方が『同じことを三國さんも言ってはりました』と言われて。それはちょっと悔しい想いをしましたね。
今の年齢で一本だけ三國の役をやれるとしたら『復讐するは我にあり』。クリスチャンとして人に対して壁を作って生きることに何ら抵抗感を持たない、あの三國をやりたい」
1996年の映画『美味しんぼ』が、父子が本格的に共演をした唯一の作品になっている。