「共演するからには、かなりいいもの、絶対的なものにしようと二人でハードルを上げ過ぎちゃったんですよね。それで、どんどん難しくなってしまった。
『美味しんぼ』は三國の企画で松竹に通したのですが、その前は『中上健次をやろう』って言っていたのに『美味しんぼ』かよ、というのはあって。でも親父も高齢だったので、もうここしかないと思って出ました。
お芝居云々じゃなくて驚いたことがあって。最後の方で三國の胸ぐらを僕が掴む場面がありますが、その瞬間、あの大きな体躯がガクッと揺らいだ。あの時は物凄く年齢を感じました。
僕の思っている三國連太郎は、いつまでも巨大な壁で、微動だにしない。それがふっと揺らいだ瞬間に、見てはいけない三國を見てしまったと思ったんです。
三國さんとお芝居をちゃんとやれる作品をやっておけばよかったと思う。それは後悔でもある。でも、その悔いが自分の中に残っていることが、僕の役者人生としては一番の財産になっているようにも思えます」
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年7月22・29日号