◆美輪は社長になった男性を「坊や」とハグしてくれた

 2012年のNHK紅白歌合戦では、かつて「放送禁止曲」となった『ヨイトマケの唄』を美輪が歌い、その圧倒的存在感で視聴率45.4%を記録。若い世代からも絶賛の声が相次いだ。美輪は歌手・役者としての顔のほか、『国分太一・美輪明宏・江原啓之のオーラの泉』(テレビ朝日系)では、様々な苦労を乗り越えてきた人生の達人としての姿を見せていた。

 そんな美輪の人物像にほれ込む人も数多い。美輪は年に1~2回、演劇及び音楽の公演のため新潟県新潟市を訪れている。となれば、サイン入り著書などの販売も行うが、かつてはその販売を書店「北光社」が担当していた。同社は2010年をもって営業を終了したが、それまで美輪と10年ほどの付き合いがあった同社元従業員で、現在は新潟市の「北書店」店長を務める佐藤雄一さんは美輪のサイン本を引き続き扱わせてもらえることとなった。

「毎回楽屋でサインをいただくんですが、僕にとってはとてつもない思い出ですけど、美輪さんは特に認識されてないんじゃないかなあ(笑)」(佐藤さん)

 そして佐藤さんはこう続ける。

「僕が『北光社』の店員だった時代から美輪さんの本を扱わせていただきました。2010年に自分で『北書店』を始めたのですが、それからもパルコ主宰の美輪さんのイベントに関連して、サイン本の販売を引き継げたのは本当にありがたいことです。

 その2010年の秋、音楽会で新潟にいらっしゃった時のことです。サインをもらうために楽屋へ行ったら、マネージャーさんが美輪さんに、『彼はこれまでの店員としてではなく、社長として来てるんですよ』と言ってくださいました。僕も『去年まで美輪さんにお世話になった店が今はなくなって、今は自分でやってるんですよ』と言いました。

 すると美輪さんは『リハ(の時間)はまだかしら?』と言い、まだ時間があることが分かると『それでは私は坊やのご祝儀にもう少し付き合いますよ』と言ってくれました。当時『坊や』なんて呼ばれてましたね。36歳だったんですけどね……。そして、『北書店』の佐藤としての名刺をお渡ししたのです。

 美輪さんは『まぁまぁなんじゃないの? 商売なんとかやれるわよ』と言ってくれましたが嬉しかったですねえ。そりゃあ、一書店員として美輪さんとお会いするのと、店主としてお会いするのは違います。間もなく本番、というタイミングまで美輪さんはサインをし続けてくれ、最後ハグしてくれて『絶対大丈夫よあなた』と言ってくれました。そんなやり取りの直後に『ヨイトマケの唄』を生で聴くなんて、そりゃもう感無量ですよ。特別な思い出ですね」

 また、新宿二丁目に通い始めてから約20年という同性愛者の男性・A氏は美輪についてこう語る。

「別格という感じがしますよね。経歴とかもそうですし、シャンソン喫茶店『銀巴里』で歌手を務めたり『麗人』と言われていたことや、歌で身を立てていたところなども。マツコさんとかは『異形の人扱い』でもすっかり受け入れられましたが、昔は美輪さんだけが特別枠として許されていたような気がします。

 美輪さんはDHCとか、化粧品のCMにも出た人。やっぱりパイオニアというよりは、伝説みたいな感じですよね。世間の女装家やゲイを受け入れる空気は段階的に上がってきています。今、女装家の市民権が許されるようになった背景には、もちろん海外のドラァグクイーンブームは影響しているでしょう。でも、美輪さんがいなかったら、多分こういう時代になるのはあと10年~20年先だったと思う」

 不倫騒動を起こしたベッキーが軒並みCM契約を降ろされただけに、CMとはもっともタレント好感度が重要視されるもの。マツコがトップに立つ時代の素地を作った美輪は、こうして多くの人から称賛を受け続けている。


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