日本人の死因第1位のがん。生涯のうちにがんにかかる人は2人に1人と言われているほど身近な病気であるが、その治療法も日進月歩で進化している。
がん治療というと、抗癌剤や放射線治療が一般的だが、最近はそれ以外の方法も実用化されている。
たとえば、特殊なガスを吹きかけ、がんをカチンカチンに凍らせて殺す──そんな、SF小説のような治療法「凍結療法」。やり方は簡単で、患者の体表に2~3mmの針穴を開けて直径1.5mmの針を数本刺し、CT画像で確認しながらがん細胞にガスを挿入する。その後、針先に氷の玉をつくり、患部を零下20~40℃まで急速に冷却する。医療ジャーナリストの油井香代子さんが言う。
「急激に凍結されたがん細胞は壊死します。死んだ細胞は時間とともに体内に吸収され、やがて消滅します」
凍結療法は局所麻酔で行われ、短い場合は1時間ほどで終わる。
「まだ一般的な治療法ではないので施術を受けられる医療機関は限られますが、患者への身体的負担は少なく、通常は施術後3~4日で退院できます」(油井さん)
欧米では前立腺がんと肝臓がんでよく使われるという凍結療法。国立がん研究センターは50代から90代の高齢の腎臓がん患者およそ50名に凍結療法を施したが、9割以上が完治し、再発者はわずか数%だったという。
2011年から4cm程度以下の小さな腎臓がんを対象に保険適用となり、2015年には慈恵医大病院で前立腺がんの臨床研究が始まった。慶応大学病院では肝臓、肺、腎臓のがんに凍結療法を導入している。
がん手術も進化している、手術支援ロボット「ダヴィンチ」は、3D内視鏡や7つの関節を持つ4本のロボットアームを備え、人間の目では見えにくいリンパ節や癒着した組織、1mm以下の血管などを簡単に切断、除去できる。
すでに前立腺がんや胃がんなどで実績のあるダヴィンチだが、今後期待されるのは大腸がん手術での活躍だ。大腸がんは、細かい神経や血管が集中している狭い骨盤の奥が患部になると、熟練の医師でも手術が困難になる。
「出血も少なく体への負担も軽い。術後の傷口も目立ちません」(油井さん)
研究の真っ只中にありながら未来の活躍に期待が高まっている細胞を紹介しよう。2015年、米国のペンシルベニア大学を中心とした研究グループの報告に医療界は騒然となった。彼らが発表した研究は、「がん治療を根底から変える」と期待される、「キメラ抗原受容体」と呼ばれる最新の技術を使ったがんの免疫療法だった。