混迷の時代を迎えているいま、日本と日本人のあり方を考えるための思想と文学の名著を10冊、社会学者の橋爪大三郎氏に選んでもらった。
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150年前に始まった日本の近代化は、成功もし失敗もした。大東亜戦争のように、自分勝手に行動すれば世界のルールと衝突して、破綻する。日本以外の、非西欧文明の国々も、近代化の道を模索して試行錯誤している。
戦後、日本はアメリカのルールべったりを選択し、安全と経済発展を手に入れた。だがアメリカは地盤沈下し、世界は多元化して不安定となった。日本は進むべき方向を見失い、八方ふさがりの閉塞感にとらわれている。
だからこそ日本は、新たなビジョンを世界に提供しよう。西欧文明の伝統に属さずとも近代化を担うナショナリズムを育てることができ、多様な文化を失わない国々が共存できる、世界ルールを整える道があることを。
では、そもそも日本のナショナリズムの原点はどこにあるのか。近代化を進め、国際社会に参入するとき、何が追い風となり、何が足かせとなったのか。世界でもユニークな近現代をたどった日本の、具体的な経験を改めて見つめ直し、近隣や世界の人びとに理解できる言葉で発信しようではないか。
以下、そのために読むべき10冊の思想関係の書を選んだ(カッコ内は成立年ないし刊行年と、現在入手できる主な版元)。
【1】『神皇正統記』(1339年。岩波文庫)
天皇と武士が覇を争い、天皇の政権自体も分裂のただ中にあった南北朝時代、南朝側の中心人物だった北畠親房が、あるべき政府の姿について、歴代天皇の事蹟を回顧しながら考察した書。冒頭の「大日本者神國(おほやまとはかみのくに)也」という一節に凝縮される思想が伏流して幕末に尊皇思想として噴出し、日本の近代化を牽引する要因となった。この書より前にあるべき国の姿について深く考察した例はなく、日本の政治哲学の原点と言える。
【2】『西洋紀聞』(1715年。岩波文庫)
江戸中期の儒学者で幕政にも参画した新井白石が、来日した宣教師を審問し、西洋各国の歴史、地理、政治、風俗などについて記した書。江戸幕府はキリスト教など海外の価値観が流入するのを怖れて国を閉ざした一方、国際社会について情報を集めることが重要とも考えていた。白石はそうした一流の知識人だが、その彼でも西洋の理解には限界があった。彼に盲点があるなら、現在のわれわれはなおのことだろう。それを反省する素材として、最適な書物。