例えば「ソバプンの話」。日頃から新聞の人生相談を愛読する佐藤氏は、ある時、同じ服を2週間も着続ける大学の同級生の異臭に悩む女性の相談に、思わず噴き出してしまう。〈女学生時代、近くの男子校に通っていた今は亡き遠藤周作氏は「ソバプン」という渾名だったことを思い出したからだ。そばに行くとプンと臭うので「ソバプン」である〉
だが昔を懐かしんだのも束の間、佐藤氏は本人ではなく学生課に解決を求めた相談者を〈私にいわせれば「怠け者」だ〉と一刀両断。ところがである。社会学者の回答欄には〈平穏な環境で学ぶことを保障するのは、やはり、大学の責任〉とあり、佐藤氏は〈エライ世の中になったものだ〉と頭を抱えてしまう。
「そんなもの、本人に一言注意すれば済む話でしょう。最近は子供の喧嘩まで警察に通報する人がいるらしいけど、降りかかった災難をまずは自分で何とかするのも、人生修行のうちです」
その何とかの中身が必見である。ある時、無言電話の被害に困り果てた氏は、犯人に反撃しようと電話口で壊れたラッパを鳴らしたり、ヤカンを叩いたり……。さらに犯人を突き止めると今度は〈加害者〉に転じる。むしろ相手が気の毒に思えるほど、事態を面白がってしまう回路の持ち主なのだ。
「何しろ佐藤家は軟派から硬派まで、不良の巣窟でしたからね(笑い)。兄たちが問題を起こす度に警察沙汰や新聞ネタになるわけです。だから両親は理不尽に耐えるために、話を面白くするということを編み出したんだと思います。私の血の中には、その伝統が流れているんですよ」