経営危機に瀕し、すったもんだの末に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されることになったシャープ。そもそも、鴻海による買収手続きは6月中に行われる予定だったが、遅れに遅れ、8月12日にようやく3888億円の払い込みが完了。晴れて鴻海はシャープの議決権の66%を握る親会社となった。
この出資金を得て、シャープは本当に蘇ることができるのか──。経営コンサルタントで小宮コンサルタンツ代表の小宮一慶氏に、財務分析を交えながら占ってもらった。
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──心配されていた鴻海からの出資がようやく完了した。なぜ、予定通り速やかに行われなかったのか。
小宮:中国当局がスマートフォン事業に対して独占禁止法に当たらないか入念に審査をしていたので、長引いていたことはあります。ただ、鴻海側もしたたかで、お金を出す前にある程度、リストラの道筋をつけたかったのだと思います。
なぜなら、買収交渉の時は「人は切りません」と約束しておきながら、基本合意ができたら「40歳以下の人は切りません」と方針が変わり、結局は、この秋にも国内2000人、海外5000人規模の人員削減を行なう予定だと報じられています。大規模なリストラ案を既成事実化したうえでお金を入れたのかもしれません。
──当初7000億円ともいわれていた出資金から大きく値切られたとはいえ、鴻海から3888億円の資金が入ったことで、シャープは命拾いをしたことは確か。
小宮:財務的にはかなり立ち直ったといっていいでしょう。2016年4~6月期連結決算を見ると、6月末には現金(及び預金)が約2393億円しかありませんでしたからね。
一般的に大企業は1か月分の売り上げ額くらいの現預金があれば経営が回っていくと考えられています。シャープは第1四半期決算の売上高が約4233億円なので、およそ1400億円の月商以上の現預金は持っていた計算にはなりますが、赤字がずっと続いていたうえに銀行からの借り入れも膨らんでいたために、余裕はまったくなかった。そういう意味では鴻海の3888億円はとても有難かったはずです。
──しかも、6月末時点で750億円もの債務超過に陥り、3月末の312億円から拡大していた。
小宮:シャープの主力銀行(みずほ、三菱東京UFJ)としても、いつ潰れるか分からない債務超過の状態でお金を貸すのは嫌ですからね。それが鴻海から3888億円のキャッシュが入ったことで、短期的かもしれないけれど20%程度の自己資本比率を得られる。そういう点では“出直し”の体制は整ったといえます。