──銀行も新たに3000億円ほどの融資枠を設けた。
小宮:銀行団もシャープが鴻海と組むことで立ち直ると予想しています。その証拠に、3月末に約6125億円あった短期借入金が、6月末までには約1459億円にまで減っています。一方、長期借入金は3月末に約402億円だったのに、6月末には約4863億円と10倍以上に増えています。
──その財務諸表から、何が読み取れるのか。
小宮:当初、シャープの経営が行き詰ったとき、銀行は貸したお金がきちんと戻ってくる保証がないため、長期に貸していたお金の返済期日が来る度に短期に借り換えさせていました。
長くても3か月、場合によっては1か月程度の期日とし、「いざとなったら融資を引き揚げますよ」というスタンスだったのです。でも、鴻海による出資のメドが立ったことで、怖々と貸す必要もなくなった。だから、再び長期融資に戻したのです。
──さて、シャープは鴻海から入った資金を元手に、スマホの普及などで需要が伸びる有機ELパネル事業などに積極投資していく方針だが。
小宮:決算における事業ごとのセグメント情報を見ると、有機ELも含まれる「ディスプレイデバイス」部門は昨年度に約1291億円の赤字、今年の第1四半期も約107億円の赤字になっています。
とはいえ、他の太陽光発電や複合機・プリンター、白物家電などに比べれば、最も将来性が見込め、シャープの優位性も出せる事業ですから、ここに賭けているのでしょう。
──有機ELの分野では、官民ファンドの産業革新機構が筆頭株主であるジャパンディスプレイ(JDI)と一緒になる選択肢もあった。鴻海支配になって成長を遂げられるのか。
小宮:合併協議の段階では、シャープが台湾企業に買収されることで有機ELをはじめ最新技術が国外に流出するのでは? と懸念されていましたが、すでに2012年にシャープと鴻海は共同で新会社を立ち上げていますし、液晶技術は1000億円単位の投資が必要な“カネ食い虫”。すぐに次の世代のモデルが出てくる状況下で、現在のモデルもすぐに陳腐化してしまい、次々と投資資金が必要になります。その点、鴻海のほうが資金的にはシャープにとって良かったのではないでしょうか。
「技術流出」よりも恐れるべきは「技術者」の流出です。シャープは長い低迷期を経る中で、人材の“草刈り場”となってしまいました。それは国内メーカーだけでなく、韓国や中国企業にも多くの人材が流れましたからね。将来のことを考えると、人材難のほうが心配です。
──鴻海側にしてみたら、シャープの液晶部門だけでなく、人材面を含めて会社を丸ごと買収したことが後の経営の足かせになる可能性があります。
小宮:確かに、ディスプレイなどの原材料、部品の生産はまだしも、他の完成品は鴻海が受託生産している企業とライバルになってしまう可能性もありますからね。
そういう意味でも、今後はキャッシュを稼げない事業は切り売りしていくことは十分に考えられます。先日、シャープの新社長に鴻海の戴正呉副総裁が就任しましたが、これからは鴻海側の主導で矢継ぎ早に新しい戦略を決定していくでしょう。
もっとも、今の状況では事業の「選択と集中」はやらざるを得ないし、単年度黒字化を目指すには人件費などの固定費削減、リストラも致し方ないことです。