経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、久しぶりに様々な場面で王道のしゃべりを披露している古舘伊知郎のトークテクニックに言及。
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やっぱり、古舘伊知郎はこうでなくっちゃ!と、続けざまに出演している番組を見てそう思った。12年ぶりに解禁されたマシンガントークが炸裂。抑え込んでいたしゃべりの本能が再び覚醒した感じだ。
とはいえ、11月から続々とスタートさせているレギュラー番組には、「ぺらぺらしゃべるだけで話が面白くない」とか「コメントが報道番組っぽい」とか、不満の声も寄せられているらしい。
テレビ朝日の『報道ステーション』のメーンキャスターを務めた12年間は、“報道ステーション仕様”の古舘伊知郎だったと思う。報道番組だから、当然といえば当然だが、軽妙で自由闊達、伸び伸びとした話術も、顔中で感情を表す表現も、身体をねじり拳を振り上げるような仕草も封印し、なんだかいつも窮屈そうに見えた。コメントは妙に取ってつけたようで、しっくりこなかった。
そんなイメージはまだ抜けきらないが、トーク番組などでの水を得た魚のしゃべりは、やっぱり抜群に上手い。そう感じさせるのはなぜなのか? その一端を分析してみたい。
第29回東京国際映画祭の特別イベント「歌舞伎座スペシャルナイト」で、「血煙高田の馬場」が上映された。伊藤大輔監督、大河内傳次郎主演の90年前の無声映画。11巻のうち10巻が焼失している幻の忠臣蔵スピンオフ映画。この5分22秒の完全ノーカット版を、古舘が弁士となって生実況した様子が、フジテレビ『フルタチさん』で放映された。
舞台に姿を現わすと、上映直前、席を探して最前列を歩く外国人のお客さんに声をかける。おそらく多くの観客が、この外国人に「早く座ってよ」と思っただろう気持ちを、敢えてやんわりジョークを交えて口にした。まずは冒頭、その場に沿った発言で、観客の心を一気に自分に引き寄せる「ブリッジング」という方法を使った。
映像はもちろん白黒。赤穂浪士になる中山安兵衛が、叔父の窮地を助太刀するため、八丁堀から高田馬場に駆けつけるというスピード感ある映像に合わせ、古舘が息も切らさず強い言葉を並べたて、たたみかけていく。インパクトのある言葉がリズムを作り、テンポがアップ、場をどんどん盛り上げていく。これは話を印象づける「連辞」という方法だ。
さらにドーピングやら医療大麻やら、時事ネタを交えることで、観客に場面を瞬時に理解させ、話を身近でわかりやすいものに変えた。これで観客の興味関心をさらに強め、映像への集中力を持続させている。古い映像なのに、現代の映像に蘇ったように生き生きと感じさせるのは、すごい。
だが、古舘伊知郎の上手さは、そんな語りの上手さだけではない。トーク番組で見せたのは、相手を引き込む巧みなボディランゲージだ。
古舘がゲストから話を聞くフジテレビの『トーキングフルーツ』。16日放映のゲストはシンガーソングライターの竹原ピストル。二人は並んで、ライブなどで使う背もたれなしの丸い回転椅子に座った。