友人女性に連れられ、サンペドロの自宅を訪れたラモナは、緊張のあまり体が硬直し、手が震えた。到着すると、サンペドロを長年、介護してきた義姉のマヌエラが、彼の生活する2階の寝室に招いた。ラモナは、友人が話しかけているところを隅でマヌエラと一緒に眺めていた。すると、背を向けて寝ているベッドの男性が声を発した。
「モンチーニャ(ラモナの愛称)、そこにいるのかい?」
突然、モンチーニャと呼ばれ、緊張の糸は解けた。彼女は、背を向ける男性に近づき、頬にキスをしようとしたが、躊躇った。握手をしようとも考えたが、彼の手は麻痺していて感じない。笑みを交わして挨拶するだけにした。
初対面のこの日、明確な意思を持つサンペドロは、彼女に率直に尋ねた。
「私が望んでいることに、君は手を貸してくれるんだよね?」
それが、死を意味していることを、ラモナは承知していた。だが、もちろん、彼の人間性に惹かれていた彼女は、「死を手伝う用意」などなかった。
「私は、あなたに死んでほしくないわ」
ラモナは、この日から、約一年半に亘って、毎日、彼の自宅を訪問する。