アインシュタインは1939年にルーズベルト宛に原子爆弾を作れる可能性について手紙を出しました。そして原爆が作られ、トルーマン大統領は真珠湾の仕返しという口実で広島と長崎に原爆を落とし、30万人もの一般市民が殺されました。
アインシュタインは、大統領に手紙を書く前の1932年、国際連盟の依頼で精神分析学のジークムント・フロイトと書簡を交わしました。アインシュタインが選んだテーマは「戦争という災難から人間を解放できるか」でした。
フロイトの答えは二つでした。一つは、国際連盟のような裁定機関をつくり、そこに権力を与えることです。二つ目は、お釈迦様の成道と同じく、「人間が自分の欲動をあますところなく理性のコントロール下に置く状況」を目指すことでした。
「欲動」は本能的な欲求のことで、お釈迦様が用いた「渇愛」と同じ意味です。お釈迦様の成道は渇愛を完全にコントロールしたことであり、フロイトが望んだ人間の理想の状態そのものです。このような「文化の発展を促せば、戦争の終焉に向けて歩み出すことが出来る」とフロイトは手紙を結んでいます。
●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。 1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医、僧侶として患者と向き合う。2014年10月に最も進んだステージのすい臓 がんが発見され、余命数か月と自覚している。
※週刊ポスト2016年12月9日号