「現代は、人情という有機的なものより、法やルールなど無機質なものに規範を求める方が合理的で便利だとされる時代です。その中で、佐藤先生が書いているのは、昔はよかったと礼讃する『老人優越主義の繰り言ノスタルジー』ではありません。世の中、なんでこうもややこしくなったのかという茫然自失であり、日本人を日本人たらしめてきた美質が忘れ去られようとしていることへの悲憤慷慨です」
日本人の美質、それは倹約・堅実・謙虚の3Kだと温水さんは言う。
「3Kの時代には『人に騙されても人を騙すような人間にはなるな』と教える美徳がありましたし、日本人は身ぎれいに生きることを好んでいましたが、今は違います。倹約した工夫と知恵のある暮らしは便利な道具に取って代わられ、堅実に生きていると負け組と呼ばれかねず、謙虚にしていると、声の大きな者にやり込められる。
高齢者は自分たちが信じてきた価値観が通じない時代になって、自信をなくしています。だから佐藤さんの『私は時代に乗り遅れている年寄りだけれど、言いたいことは言いますよ』という毅然とした態度に拍手喝采を送り、元気や活力を取り戻しているのだと思います。怒るのにも実は体力がいって、その点、先生の文章には体力と気力が漲(みなぎ)っています。“私、怒ってます”の図で、読者を笑わせ、共感させるのはたぐいまれなセンスです。先生の芸に座布団100枚! もっともっと書いて、日本中に怒りと笑いの渦を巻き起こしていただきたいです」
日々の生活に疲れている皆さんも、元気になること請け合いです。
※女性セブン2017年2月2日号