東京を走るタクシーの初乗り運賃が、2キロ730円から1.052キロ410円に値下げされて早10日──。買い物や病院通いなど、日頃“チョイ乗り”移動の多い高齢者を中心に、「タクシーが利用しやすくなった」と概ね好評なようだが、歓迎する声ばかりとは限らない。
というのも、基本的に値下げの恩恵を受けられるのは2キロ以内の乗車で、それを超えると6.5キロまで値下げと値上げが混在。6.5キロ以上は確実に値上げとなるからだ。経済誌記者がいう。
「タクシー業界としては、近距離値下げによって高齢者の利用回数アップや、普段タクシーに乗らないような若者など新規顧客の獲得を狙っているが、値下げ分の減収をどこまで補えるか分からない。そこで、中長距離は値上げになるような運賃体系に組み替えて、いわば“保険”をかけた」
仕事中の外回りや深夜残業の帰りに中長距離を乗るようなサラリーマンは、会社の経費で精算できるため、多少値上げしても客離れは起きないだろうとの読みがあったのかもしれない。だが、そんな景気のいい時代は過去の話。
「タクシー料金や出張旅費など、経費がかさむ仕事は経理から厳しくチェックされますし、働き過ぎ問題もあって、忙しい年度末以外は終電までには帰るように通達が出ています。そのため、値上げになるぐらい長い距離を乗るタクシーの回数は減らそうと思っています」(食品メーカー勤務の40代男性)
現場のタクシーも、こうした中長距離の乗客減による売り上げ悪化を懸念している。雷門や東京スカイツリーといった下町界隈の観光地を走る50代の運転手がボヤく。
「もともとこの辺りは、近場の駅やホテルまで送る外国人観光客も多く、回数をこなさなければ営業所から言われている水揚げ(売り上げ)目標は達成できません。
しかも、今回の初乗り値下げで2キロ以内のお客さんが増えたため、乗降客の多い駅に1時間並んでも570円の運賃なんてケースも増えてきました。このままでは生活が苦しくなってしまうので、駅待ちするのはやめようかと考えています」