「素の自分に自信がないんです。ボキャブラリーも少ないし、面白くない男なんです。でも、出るからには視聴者に、楽しい時間を感じていただきたいと思うから、プレッシャーです」
自身をこう分析するが、小日向は素でも生粋のエンターテイナーだ。テレビ収録の打ち合わせや舞台挨拶の控え室などでは、小日向のトークで必ず笑いが巻き起こり、空気が温かくなる。
一方でストイックな一面ものぞかせる。セリフは全部、現場に入る前に憶えるのが小日向の流儀。常に台本を持ち歩き、現場への移動時にも台本を開く。帰宅後の時間も、年間を通して数少ない休みの日も、家の中で台本読みに費やす。多忙を極めた昨年は1年間ずっと、セリフを入れる作業が続いた。
「『真田丸』の撮影後の秋には主演舞台『DISGRACED ディスグレイスト─恥辱』が控えていました。パキスタン系アメリカ人の弁護士という役で、ものすごい会話劇。僕が今までやってきた舞台の中で一番セリフが多かったんですよ。
上演2、3か月前からの準備ではとても間に合わないと思ったので、秀吉をやりながら舞台のセリフも入れていました。同じ時期に連ドラ『重版出来!』(TBS系)で漫画家を演じていたので、同時進行で3つの役。漫画家は背中がまがっている人だったんですけど、秀吉の現場で背中を丸めそうになって、『あっ、これじゃない』って気がついて(笑い)」
●こひなた・ふみよ/1954年生まれ。北海道出身。東京写真専門学校を卒業後、俳優・中村雅俊の付き人を経て1977年、演出家・串田和美が主宰する劇団「オンシアター自由劇場」に入団。1996年の同劇団解散後は、映像の分野にも活動の場を広げ、テレビや映画などに多数出演。2008年、『あしたの、喜多善男~世界一不運な男の、奇跡の11日間~』(フジテレビ系)で連続テレビドラマ初主演。2011年の主演舞台『国民の映画』で第19回読売演劇大賞最優秀男優賞受賞、2012年の映画『アウトレイジ ビヨンド』で第86回キネマ旬報ベスト・テン助演男優賞受賞。最新の主演映画『サバイバルファミリー』が2月11日より全国一斉公開。待機作は映画『LAST COP(ラストコップ) THE MOVIE』(5月3日公開)など。
撮影■初沢亜利、取材・文■上田千春
※週刊ポスト2017年2月17日号