◆心臓から汗をかけ
「先代・鳴戸親方の口癖は“心臓から汗をかけ”でした。稽古は内容も濃いし、時間も長い。他の部屋では朝7時から10時くらいなのに、早朝6時から昼過ぎまで親方が付きっきりで指導する」(担当記者)
指導は土俵外にも及んだ。親方自らチャンコ場に立ち、「野菜の消化吸収をよくするために、カレーは具が溶けるまで煮込め」といった指示まで出したという。
「弟子の体づくりのためとはいえ、煮込みを命じられたチャンコ番が夜中まで居眠りしながら鍋を混ぜていたこともある。とにかくすべてに本気。驚いたのは当時、部屋頭だった若の里(元関脇、現在は田子ノ浦部屋付きの西岩親方)にもトイレ掃除をさせ、“若い衆ばかりにやらせるな!”と叱りつけていたことです」(同前)
語り継がれる伝説的なエピソードには事欠かない。田子ノ浦部屋は横綱・稀勢の里と関脇・高安のほかは三段目以下5人しかいない小所帯だが、鉄の掟を守ってきたからこそガチンコ横綱が生まれた。ある部屋付き親方はこういう。
「年3回、国技館での本場所前に行なわれる綱打ちなどの行事で一門の他部屋から人を借りることが増えるが、そうした“借り”ができても独立独歩を保てるかが見もの」
空気を読まずにガチンコ変人を貫けるか──それが新横綱の成績を左右する。
※週刊ポスト2017年3月17日号