冒頭で述べたように、自動運転は今、とてもホットな分野となっている。安倍内閣が2020年までに無人タクシーを走らせるというチャレンジングな目標を表明したり、アメリカの半導体大手、インテルがイスラエルの自動運転システム開発企業、モバイルアイを153億ドル(約1兆7300億円)で買収すると発表したり、ホンダがグーグルからスピンアウトした自動運転車開発企業ウェイモとの協業を決めたりと、話題には事欠かない。
が、自動車開発の前線では、運転免許が不要で酒を飲んでいようが寝ていようがパセンジャーを望むところに連れて行ってくれるような文字通りの“完全自動運転車”については、実用化はまだまだ当分先のことだという冷静な声のほうが増えつつある。
現在、クルマのコントロールを人間に頼らないとするレベル4については2020年代のどれだけ早い時期に実現できるかということで競われている。が、無人タクシーや自動配車によるカーシェアなどの新ビジネスは、事故、トラブルの責任をクルマの側が負う最高峰のレベル5、すなわち完全自動運転車が実現されない限りまず成立しない。
高齢者の増加、トラックドライバー不足など、完全自動運転車の社会的なニーズは限りなく大きいのだが、密度が高く、不確定要素があまりにも多い道路交通においてそれを実現する道筋は、実は今でも立っていないのだ。
一方で、レベル2からレベル3については、単にクルマを半自動で走らせるという領域を超え、「このクルマは素晴らしい」と顧客に感動を与えるにはどうしたらよいかというレベルの味付けも含めた競争の段階に入りつつある。その競争の結果、クルマにどのような新しい楽しみが生まれるか興味深い。
取材・文■井元康一郎(自動車ジャーナリスト)※写真提供も