「みんなが父の話をしてくれるんです。一日も早く手術をするよう言われていたのに『神様にお勤めしているから、こんなことじゃ死なない。お勤めがあるから手術はできない』って言っていたそうですし、氏子さんから『よく叱っていただいてありがたかった』という話も聞きました。父もつらかったことがわかったし、誇らしくも思えました」
父は黒い革の鞄を大切にしていた。それは有森が映画デビューした後にプレゼントしたもの。その鞄を見ては離れて過ごす家族を思い出していたということも、こうした縁で知ることとなった。
有森は自宅に仲よく並んでいる父と母の遺影について話しながら、「やっと家族全員が集まれたんです」と茶目っ気たっぷりに言う。
「ただね、なんで亡くなってからなんだろう、って思うの。もう少し早くこういった気持ちになれていたらって。そしたら、離れて暮らしていても、家族そろって過ごす時間ができたんじゃないかなって思うんです。
でも人にはちゃんと通るべき道があるんですね。運命っていうと薄っぺらい気がするんですけど、母が亡くなって、父もいなくなって、そうした今だからこそわかることがある。私の結婚も、そういうタイミングがきたらそうなるんじゃないかな(笑い)」
ふわりと相好を崩す有森だったが、『東京ラブストーリー』(1990年)で好演した“関口さとみ”を思い出させるような優柔不断さはない。彼女がまとう両親の愛に包まれたしなやかさは、5月の晴れ渡る空のように、どこまでもすがすがしく、気持ちのいい風さえも感じさせた。
撮影/村上雅裕
※女性セブン2017年6月1日号