古典落語の人気演目「片棒」は、引退を前にした江戸商人・赤螺屋(あかにしや)が3人の息子の誰を店の跡継ぎにするか悩むところから物語が始まる。「片棒」の舞台から300年たった今、落語界でも“後継問題”が思わぬ展開を迎えていた──。
肺炎で入院していた落語家・桂歌丸(80)が5月13日に退院した。35キロまで落ちていた体重も徐々に戻り、現在は食事も取れるほどに回復。しばらくは自宅で静養しながら高座復帰を目指すという。だが落語関係者は「完全な復帰は困難では」と声を潜める。
「必ずや高座に戻っていただきたいと思いますが、ここ数年は入退院を繰り返しているだけに、会長職を続けるのは難しいかもしれない」
この「会長職」とは、東京落語界の二大協会のひとつである落語芸術協会(以下、芸協)の会長のことである。漫画家で落語評論家の高信太郎氏が解説する。
「芸協は合議制で、協会の方針や新しい試み、誰を真打ちに昇進させるかなどはすべて理事会で取り決めます。会長は、これら理事や協会員をまとめる役割を担います」
2004年から歌丸が務めるこの職は、これまで六代目春風亭柳橋、五代目古今亭今輔、四代目桂米丸、十代目桂文治ら大師匠たちが務めてきた。
名誉ある大役だけに、当然、『笑点』の司会者同様にその座をめぐって手を挙げる者が続々……と思いきや、どうもそうではないらしい。芸協関係者がいう。
「6月には芸協の役員改選が行なわれます。歌丸師匠の体調のことを考えれば、5月下旬の理事会で後継者問題について話し合われるのは間違いない。だが、この状況下でも、誰も手を挙げようとしないんです」