裕次郎の妻・石原まき子氏(83)は女優・北原三枝として何度か共演している。
「『青春怪談』(1955年)で初めて会ったときの印象をひと言でいえば、清楚でかわいらしい、先輩を立てる女の子でした。彼女の役はバレリーナの卵で、私が演じる先輩に憧れる可憐な少女で、本当に愛らしかったです。石坂洋次郎先生原作の純文学作品『陽のあたる坂道』(1958年)では、原作やシナリオの行間まで深く理解し、演技に挑まれていると感心したものです」
俳優・川地民夫(78)は、『陽のあたる坂道』がデビュー作。芦川の恋人役を演じているが、「いづみちゃんは恋人というより少女のような人でした」と振り返る。
「僕より年上で先輩俳優でしたが、芝居が初めての僕に、緊張を感じさせない接し方をしてくれました。先輩というより友達のような関係でしたが、当時の女優は男が“俺のものにしたい”と思うような魅力を、誰もが持ち合わせていたものです。その意味で、少女らしさと色気の両方を兼ね備えたいい女優でした」
だが人気絶頂の1968年、芦川は銀幕から惜しまれつつ姿を消し、その後を知る者はほとんどいない。1963年に42歳で突如引退した伝説の女優・原節子のように、私たちは永久に、スクリーンの中で輝き続ける芦川いづみに出会うことができるのだ。
■取材・文/戸田梨恵
※週刊ポスト2017年6月9日号