谷村新司は、十数年前、実は意図的に生き方を変えた。
「忘れもしません、55歳のクリスマスの晩です。妻に言われたんです。『歌を創って、歌を届けて、旅をして……これだけがあなたの生き方じゃないのかもしれないわね』と」
帯状疱疹が出るなど、その当時、体調は万全ではなかったが、年間200回以上のステージをこなし、生き方に疑問を持ったことはなかった。
「妻は仕事のパートナーでもあり、公私にわたり僕を支えてくれていました。妻の言葉は、僕がそれまで考えもしなかったこと。とても衝撃的だったんですが、同時に『あっ、そうかも』と思ったんです」
谷村は、感じた瞬間に足を踏み出した。活動は全部白紙。ファンクラブを解散し、事務所も1年かけて閉じた。
「それまでは8割は従来のことのキープで、残りの2割で新しいことをやろうとしていた。でもそれだと、結局2割程度の内容のものにしかならないんですよ。それを空っぽにしたら何でもできるんじゃないか。そう思ったら妙に興奮してきましたね」