すごく憶えているのは、その際の野際さんのファッションである。かつて、「アパート(有名人が多数住んでいたことでも有名な「川口アパート」)の中で私がいちばん、ひどい恰好をしている」「よその奥さまたちが、ごみを捨てにいらっしゃるときにもオシャレをなさっていてビックリした」などと話されていたので、衣装ではない、野際さんの普段着に興味津々だった私。
だが、シャツの襟を立て、膝下丈のタイトスカートにハイヒール、カーディガンを羽織り、エルメスのガーデンパーティーを抱えて会議室に入っていらした野際さんは、デキる番組プロデューサー役を演じていらっしゃるかのようにオシャレで本当にカッコよかったのである。
バッグが、ケリーやバーキンよりも、たくさん入り、カジュアル寄りのガーデンパーティーだというのには意味があった。野際さんは女優さんなのに、ペンケースやノート、資料などを同バッグに入れ、会議に出てくださったのだ。
もちろん、積極的に意見をおっしゃり、ときには冷静に、そして鋭く内情を分析。シャープでありながら、しかし、チャーミングでもあり、ウイットにも富んでいる、これぞ知性派と言えるのが野際さんだった。
収録時には、楽屋に大きな大きな加湿器を持ち込み、常に喉や声を大切にされていたし、バラエティー番組とは思えないような差し入れをしてくださったり、スタッフ全員を馴染みの中華料理店に連れて行ってくださったことも。
さらには、逗子の御自宅にスタッフや共演者を招き、バーベキューパーティーを開いてくださったこともあった。
お庭には、野際さんが大事に育てていらっしゃる季節の植物が咲き茂り、小さな木札に名前が記されていた。
地元の方との関係がすこぶる良好だとわかったのは、ご近所の方やタクシーのドライバーさんの我々への反応だ。まるで、野際さんの御親戚が訪ねてきたかのように、声をかけてくださったり、笑顔で挨拶をしてくださった。
『旅の香り』と言えば、私は忘れられないことがある。それは、03年、中井美穂が「腹膜炎ということで、腸が破れる病気」(本人談)になったときのことだ。