飲食店などでの「屋内禁煙」を定めて法規制(健康増進法改正)の強化を目指してきた国の受動喫煙防止対策は、議論が煮詰まらないまま、ひとまず今通常国会での提出は見送られた。
塩崎恭久大臣以下、厚生労働省がたばこの規制強化を急いできたのには訳がある。
2019年のラグビーワールドカップ、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックと立て続けに開催される国際的なスポーツイベントを機に健康増進を掲げ、「WHO(世界保健機関)やIOC(国際オリンピック委員会)から“世界最低レベル”との烙印を押されている受動喫煙対策を進めて汚名返上したい」(自民党幹部)からだ。
規制賛成派の与党議員の中には、「日本に来る外国人も非喫煙者が多く、日本人のたばこマナーの悪さに不満を持っている人は多い。このままでは、おもてなしどころか、オリンピック時のインバウンド需要に影響が出る」と懸念する向きまである。
だが、屋内禁煙が当たり前の先進国では外での喫煙は比較的自由に認められているのに対し、日本は自治体レベルでの路上喫煙禁止エリアがどんどん拡大している。さらに飲食店では混雑する時間帯を禁煙にしたり、フロア毎に喫煙席と禁煙席を分けたりと、「分煙」の促進で受動喫煙被害を減らそうとする自助努力が広まっている。
いまや喫煙率が2割を切った日本で、少数派の喫煙者の肩身は狭く、屋内外問わず遠慮しながら“煙の行方”に気を遣っている光景もあちこちで見られる。
そんな環境下で、「お上」が罰則つきの法案をゴリ押しし、これ以上、強制的に喫煙者を締め出さなければ解決できない問題なのか──。年間3000万人の人々が訪れる日本有数の観光地・浅草を取材してみると、その疑問はますます膨らんでくる。
「浅草の町は良い意味で皆がバラバラなんです。渋谷や銀座のように大企業が町のカラーを強烈に打ち出しているわけではないし、小さな企業や商店それぞれが『お山の大将』で違った個性を発揮している。だからこそ、来る人を魅了するのだと思います。
飲食店のたばこ対策も同じです。お茶やお酒を飲んで一服しながらゆっくりくつろいで欲しいと思う喫茶店、居酒屋もあれば、純粋に食事だけを楽しんでほしい昔ながらの蕎麦屋や寿司屋もある。いろいろなオーナーの考え方や接客スタイルの選択肢があってこそ浅草なんです。
あまり町のルールや禁止事項を厳しくして、整然とさせてしまったら誰も来なくなりますし、何よりも町全体がつまらなくなってしまいます」
こう話すのは、浅草観光連盟会長で仲見世商店街振興組合理事長の冨士滋美さん。仲見世で煎餅やお菓子などを売る「評判堂」の店主だ。