もちろん、近年は訪日外国人の増加にも伴い「安心・安全と情報公開は欠かせない」(富士さん)と、時代に合わせた取り組みもしている。全国の商店街に先駆けて仲見世にWi-Fi網を整備したり、浅草のイベントがリアルタイムでチェックできるスマホアプリ「365ASAKUSA」を立ち上げたりしたのも、おもてなしの一環である。
たばこ対策についても、初めて浅草を訪れる人たちが飲食店の喫煙環境が分かりやすいようにと、「浅草料理飲食業組合」や「浅草おかみさん会」からの協力要請を受け、5月より店頭に貼る共通の“分煙ステッカー”を配り始めた。
〈喫煙〉〈分煙〉〈時間分煙〉〈禁煙〉と色分けされた各種ステッカーには、「浅草は、マナーもふくめてOMOTENASHI!」のスローガンとともに、浅草らしいウィットに富んだこんな文言が散りばめられている。
〈喫煙〉浅草には煙をあびる文化もあるし!
〈分煙〉分煙は白黒つけない日本文化!
〈禁煙〉このへんでは数少ない、禁煙の店。
ステッカー作成に携わった協同組合「浅草おかみさん会」理事長の冨永照子さんも喫煙場所の一律規制強化の方向には断固反対だ。
「浅草は昔から変わらず“下駄ばきで来られる庶民の町”。昼間から一服しながらお酒を飲んでいるお客さんはいるし、たばこが吸えないと分かったら帰ってしまうお客さんだっている。
もし、たばこの嫌いなお客さんがいたら、お客さん同士で席を交換し合ったり、中座して店外で吸ったりしています。そもそも、喫煙できるか確認してから入店してくるお客さんも増えましたしね。そうやって他人を思いやる人情によっても支えられているんです。だから、浅草には全面禁煙なんて縛りは必要ありません!」
富永さんが営む蕎麦店「十和田」で話を聞いていると、さっそく「たばこ吸える?」と申し訳なさそうに店内に入ってくる客の姿が……。「国会議員にも浅草の町を1日歩いて、小さな店の現状も知ってもらいたい」と冨永さんは切々と訴える。
分煙ステッカーはすでに250軒の飲食店に配布。冨永さんらはそれと同時に屋外の喫煙場所新設にも尽力している。浅草での分煙推進活動が日本のモデルになればと、町の組合はここぞとばかりに団結している。
もっとも、浅草の町民たちは国と違ってオリンピックだけを見据えているわけではない。じつは1964年の東京五輪の後、浅草は長らく「斜陽の時代」に苦しんだ歴史がある。