「野嶋さん、台湾と日本の最大の絆はね、私のように日本を自分のなかに抱え込んだタイワニーズなんだよ」
そんな場で黄昭堂から一度ならず聞かされた言葉だ。タイワニーズという言葉がやけに印象深くて忘れられなかった。その言葉の深い意味が、連載を書き進めながら、私のなかでも次第に輪郭を伴って理解できるようになった。
多くの台湾人は、日本が深く関わった歴史の荒波のなかで台湾という故郷に別れを告げたが、日本という第二の故郷に出会った。アイデンティティや台湾への思いに違いはあっても、その存在自体が、今日の日本にとっても、台湾にとっても、二つの地をつなぐかけがえのない財産なのである。
●【著者プロフィール】1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に香港中文大学・台湾師範大学に留学。1992年朝日新聞社入社後、2001年からシンガポール支局長。その間、アフガン・イラク戦争の従軍取材を経験。政治部、台北支局長、AERA編集部などを経て、2016年4月からフリーに。主な著書に『ふたつの故宮博物院』『台湾とは何か』。
※SAPIO2017年8月号