「若い頃から積極的に市民運動に関わったこの世代は社会的意識の高い人も多い。私は本作を書きながらニュータウンが、幹から枝葉が出て花や実がなり、朽ちてもまた新しい命が芽吹く1本の木に思えてきた。枝葉の方向はバラバラでも1本の木として根を張り、おそらく人がいる限り、そこにあり続けてくれるんです」
木といえば、タナダユキ監督で映画化された初小説『お父さんと伊藤さん』でも、わけあって娘の同棲先に転がり込んだ老父が思い出の柿の木を落雷で失い、育てていた枇杷の苗木を伊藤さんに娘共々託すシーンが印象的だった。柿から枇杷への世代交代にも通じる〈消滅と再生〉への信頼、人も町も精一杯に生きて朽ち、次代にバトンを継ごうとする程よい無常観が、本書をよくある懐古譚やイイ話にはしないのだ。
「あれ、今回も枇杷団地でしたね。すみません、完全に無意識です!(笑い)」
【プロフィール】なかざわ・ひなこ/1969年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒。在学中に不等辺さんかく劇団を結成し、出版社勤務の傍ら作・演出を手がける。退職後は劇作家に専念し、2013年『お父さんと伊藤さん』(「柿の木、枇杷も木」を改題)で第8回小説現代長編新人賞を受賞、翌年同作で小説デビュー。著書は他に『星球』『PTAグランパ!』等。また「ミチユキ→キサラギ」で仙台劇のまち戯曲賞大賞、「春昼遊戯」で泉鏡花記念金沢戯曲大賞優秀賞等。152cm、B型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年8月11日号