映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、映画、ドラマ、舞台などで50年以上にわたり活躍する村井國夫が、俳優座養成所に入所してからの駆け出しの数年間の思い出について語った言葉を紹介する。
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村井國夫は1963年に俳優座養成所に入所する。同期には原田芳雄、夏八木勲、地井武男、高橋長英、小野武彦、前田吟、栗原小巻、太地喜和子らがおり、彼らは後に「花の十五期生」と呼ばれることになる。
「僕はずっと引っ込み思案で、母に心配されて『演劇部にでも入りなさい』と言われたんです。それでも、自分で入れてくださいとも言えず、姉の同級が演劇部だったので、僕のクラスに迎えにきてもらいました。
その部は一つ先輩に男子が一人だけであとは女子だったのですが、その先輩が辻萬長さんでした。辻さんが高校卒業後に俳優座の養成所にお入りになったので、僕もその後を追った。最初はそんな安易なものでした。
ここに入ったのが、僕としては幸せでした。素晴らしい同級生たちがいましたからね。僕は最年少で、みんなにくっついて歩いていたという感じです。
先生では劇作家の田中千禾夫さんや演出家の栗山昌良さんがいて、言葉の言い方について徹底的に教わりました。たとえば、『僕はあなたを愛しています』というセリフの場合、『僕は』なのか『あなたを』なのか『愛しています』なのか、どこに力点を置くかで相手への心情は全く変わってきますよね。この人物は『僕は』を言いたいのか、『あなたを』を言いたいのか、『愛しています』と言いたいのか。それをホンの前後から見つけていく。
ですから、今でも日本語には敏感で、若い人が語尾にばかり力点を強く持っていったりすると気になります」