『男たちの旅路』『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』──テレビ史に残る多くの名作ドラマを生み出してきた脚本家・山田太一氏(83)。山田氏はこの1月に脳出血で倒れ、6月に退院したものの「もう脚本家として原稿が書ける状態ではない」「社会的には“弱者”になったのかもしれません」と語る。現在は右足をひきずった状態のため、「危ない」とひとりで散歩に出ることも許されていない。自分を“弱者”と表現する山田氏は、過去のある作品を強く思い出すという。
数ある山田作品のなかでも、身体障害者や高齢者を取り上げ、大きな話題を呼んだのが『男たちの旅路』(NHK)だ。鶴田浩二が特攻隊の生き残りの男気あふれるガードマン・吉岡晋太郎を、水谷豊が戦後生まれの軽薄な同僚・杉本陽平を演じた。
世代や個人で考え方の違うテーマを扱った人間ドラマで、1976年から1982年にかけて4部に分けて放送された。
第4部第3話の『車輪の一歩』(1979年11月放送)では、車椅子生活をする障害者の若者たちが置かれた厳しい現実を描いた。車椅子の青年が性風俗店に入ろうとして入店を断わられ、親の前で号泣するシーンが鮮烈な印象を残した。その青年に吉岡は優しくこう諭す。
〈今の私はむしろ、君たちに、迷惑をかけることを恐れるな、と言いたいような気がしている〉
“人に迷惑をかけない”という世間のルールを守ろうとするから、卑屈になる。自分が特別であることを認め、胸を張って他者に迷惑をかけるべきだと説いたのである。
放送当時は「バリアフリー」という言葉もなかった時代。この回は大きな反響を呼んだ。