ライフ

【書評】張り詰めた散文で粘り強くものを語った思索の記録

【書評】『湯殿山の哲学 修験と花と存在と』/山内志朗・著/ぷねうま舎/2500円+税

【評者】池内紀(ドイツ文学者・エッセイスト)

 山形県中央部にひろがる出羽三山は古来、修験道のお山として知られてきた。月山、湯殿山、羽黒山で宗教的聖域をつくり、そのスケールでいうと、西の伊勢よりもはるかに広大で奥深い。

 三山のうちでも湯殿山は東北最大の霊場として、江戸期を通じて人気スポットだった。全国からの参拝者は六十里街道を西にすすみ、正別当寺の本道寺宿坊に入って入山許可を得た。宿坊の主人は先達でもあって、夏は泊まり客を案内し、冬にはお札を配ってまわる。その本道寺は明治維新の排仏毀釈で寺格を失い、さらに戊辰戦争で堂塔伽藍を焼き払われた。

『湯殿山の哲学』の著者(一九五七年生まれ)は本道寺の宿坊の一つに生まれ、村を出て東京の大学で哲学を学び、現在は慶応大学教授。中世スコラ哲学を専門。ハハーン、西欧に学んだ人が中年すぎて先祖返りして、自分のルーツへ聖地巡礼をしたと思いがちだが、似ていて違うのだ。

「湯殿山とスコラ哲学とはどうように結びつくのか。それは思想史や哲学の問題ではない、結びつく必然性はないし、結びつける必要もない。それらが私の頭の中でどのように結びつくのか、という問題だ」

「一階の客間」で西洋哲学を学び、「屋根裏部屋」で真言密教の禅や湯殿山信仰の本を「隠れ読み」したとも言い換えてある。ひそかな聖地巡歴は独特の二重性をおび繊細で、かつ入り組んでいる。

関連記事

トピックス

同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
入場するとすぐに大屋根リングが(時事通信フォト)
興味がない自分が「万博に行ってきた!」という話にどう反応するか
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン