月山を手初めに、湯殿山、本道寺、森、雪、水、川、集落、宿坊、修験道のいう千日行、即身仏、詞の女人性、二度にわたる「花」のエレメント……張りつめた散文で、ねばりづよく語りようのないものを語って、繊細かつ二つとない思索の記録を生み出した。
まわりまわって行きついた先は何もなく、ただこよなく自由な一点、私たちの心性のなかにたしかにあって、物量の洪水のなかで見失い、忘れはてたもの。私はそのように読んだが人それぞれにちがった読み方ができる、そんなフシギな著書である。
※週刊ポスト2017年10月6日号