東京都の湾岸エリアでは、タワーマンション市場に静かな異変が起きている。新築のタワーマンションでは、ここ2年ほどの傾向であった「強気の値付け」が影をひそめ、やや弱気な価格政策が見られるようになった。
また、3年前に「超強気」の値付けで売り出した物件が、竣工2年を経て「ひと声500万円」という値引き販売が常態化した。実際には住戸によって1000万円以上の値引きも行われていると推測できる。ディベロッパーの販売政策が弱気に転じた証拠であろう。
一方、中古のタワーマンションでは相変わらずの供給過多だ。つまり、売り出し物件は大量にある。売り出し価格のほとんどは新築時の販売価格を上回っている。しかし、成約数は非常に少ない。成約額を見ると新築時の販売価格スレスレか、わずかに上回っている程度。値上がりを見込んで購入した人々が、目論見通り売却できていないということだ。
そして、様々な噂が飛び交っている。その中でも「1人で10戸以上も購入した中国人が売り始めた」的な、外国人がらみのものが多い。真偽は定かでないが、水面下では様々な動きがありそうだ。そのうち、可視化されて誰にもわかるようになるだろう。
私はこれまで、いろいろなメディアで湾岸エリアのマンション市場が実力以上に過熱化している実態を書いてきた。どうやら、過熱化はピークを超えた気配を感じる。しかし、本格的な価格の下落がいつ始まるのかについては、今のところはまだ予測できない。もしも暴落的な市場の動きがあるとすれば、それは何かの強烈な出来事が引き金となるはずだ。
今のところ、私が懸念する引き金は4つのキーワードで表現できる。それは、次の通りだ。
「地震、カミナリ、華人、オヤジ」
順次説明しよう。まず、「地震」について。これには多くの言葉を要しないはずだ。東日本大震災や熊本地震など、日本は地震活動が活発化する時期に入ったと思われる。湾岸エリアを含む東京に、いつ震度7クラスの地震が起きても不思議ではない。
地震で湾岸のタワーマンションが倒壊する、と言いたいわけではない。建築基準法通りに施工されていれば、理論的には建物の倒壊などあり得ない。懸念すべきは建物の耐震性能ではない。問題とすべきはインフラと津波だ。
東日本大震災の際、多くの地域で液状化が起こった。首都圏では新浦安と海浜幕張での液状化が酷かった。これによって、多くの住宅で上下水道が使用不能となった。新浦安と海浜幕張は千葉県の中でも人気の高いエリアであったが、震災後は中古マンションの価格が下がり続けている。当然の成り行きだろう。
また、東京湾はほぼ陸地に囲われた内海といえども、津波は発生する。過去の事例をみると、2メートル未満であったことがほとんどだ。だから、それによって命の危険にさらされる可能性は小さそうだ。
しかし、タワーマンションならではの問題はエレベーターだ。湾岸エリアでは、たとえ1メートルの津波に洗われたとしても、マンションの1階部分は浸水する可能性が高い。エレベーターホールが1メートル浸水するとどうなるのか。復旧までには短くて数日を要するはずだ。高層階に住んでいる人々はどうすればよいのだろう。
タワーマンションはエレベーターや上下水道という生活のインフラが機能していてこそ、人間が暮らせる住宅だ。埋立地である湾岸エリアは地震や津波に対する脆弱性が際立っており、その弱さが可視化されると資産価値への評価が一気に失われる。