「振り返り方一つだけでも研究しましたよ。首から動くんじゃないんですよね。体から動いて、首はあとからついてくる。
その時の目の動きも役者によって違います。たとえば下を向いている状況から横を見る時、大川橋蔵さんだったら下から目線を上に上げながら横を向く。長谷川一夫さんは下を向かずに真横に動かす。杉良太郎さんは目線を完璧に下に下げてから動かす。そうやってそれぞれ工夫しながら色っぽく見せています。
僕の場合、長谷川さん流ですね。目線を落としてから上げるのではなく、そのまま平行に横に動かしました」
舞台やテレビ時代劇での着物の着こなしや所作にも独特の色気がある。それは芝居だけでなく歌っている時も漂っている。
「着物というのは、着た時に粋でないといけない。舞台で着物を着るからには、歌うにしても芝居するにしても粋さがないと観客には伝わりません。でも、粋になりすぎてもいけないんですよね。やくざっぽくなって品がなくなる。品があって粋で、というのは非常に難しい。
たとえば時代劇でも、男性も女性も襦袢の襟を開けるのが好きな人がいます。一方で襟をビシッと閉じている人もいます。
でも、どちらもよくないんですよ。襦袢の襟って詰めると商家の番頭さんや丁稚どんみたいになって色気がない。でも、開け過ぎるとだらしなくなる。
一番いいのは『ざっくり』です。老舗旅館の六十五歳から七十、八十歳の女将さんが着る着方。四、五十代じゃなくてね。襟は詰めないで襟留めで普通に留めておいて、全体的にゆったりとした感じで着る。そういうのを心がけています。
そういう着方を普段からしておくと、着物に見慣れている人からも『着なれていますね』と言われるようになります」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館刊)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年11月24日号