渡辺は、早大4年時(1996年)には各校のエースが集まる“花の2区”で、9番手でタスキを受け、8人をぶち抜いてトップに立つなど、いくつもの伝説を残した。卒業後は鳴り物入りでヱスビー食品に入社したが、計7度のアキレス腱の故障の影響で、五輪でのメダルを期待されながらも思うような成績を残せなかった。

 実業団入団後、マラソンを目指しても“駅伝の呪縛”はある。

「長距離選手が陸上で飯を食っていくのに手っ取り早いのが実業団に入ることです。箱根ほどの影響力はありませんが、ニューイヤー駅伝は企業にとって大きな宣伝効果がある。そのため、たとえマラソンが目標でも会社の名前を売るために駅伝を走らなければならなくなる。そんなジレンマがあるんです」(酒井氏)

 以前、渡辺は青学大・原晋監督との対談でこんな問題点を指摘している。

「常々問題だなと感じるのは、大学生ランナーのその後です。(中略)実業団に入った学生が大学と同じかそれ以下の練習しかできなくて、結局世界で通用しないじゃんって燃え尽きてしまう」

 原も同対談で、指導者としての苦しい胸の内を明かしている。

「卒業生を実業団に送り出すときに悩みますよね。育成方針が真逆の監督のところに行ってしまったら選手がかわいそうです」

 そんな日本陸上長距離界の現状を打破するためか、2017年の箱根で優勝した際、原はこんな言葉を残した。

「箱根駅伝の舞台だけではなく、わが“青山学院軍団”から東京五輪を目指せるランナーの育成を考えていきたいと思います」

◆箱根駅伝はゴールではない

 実際、2016年の東京マラソンでは、フルマラソンに挑戦した同大の下田裕太が日本人2位、一色恭志が同3位と健闘している。原の妻で、青学大陸上部の寮母を務める美穂さんが原の思いをこう代弁する。

「監督は、箱根は大きな目標だけど、ゴールではないと選手に意識させています。選手たちに“マラソンに挑戦したい人?”と尋ねて、手をあげた選手にはマラソンの練習もさせています。まずは走りたいという気持ちがある子にはチャンレジさせています」

 学生時代から、マラソンを意識させる革新的な指導法で、五輪で活躍できる選手を育成しようとする原。そして、“実業団の負のジレンマ”から抜け出すため、対照的な行動を取ったのが、渡辺の愛弟子で、元早大のエース・大迫傑だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン