【著者に訊け】旗手啓介氏/『告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実』/講談社/1800円+税
本来、23年という歳月は決して無為に過ごしていい代物ではない。しかしこの国には何ら検証もされずに放置されてきた事柄も多々存在し、その一つ、カンボジアでの国連平和維持活動(PKO)に光を当てたのが、NHKスペシャル「ある文民警察官の死」(2016年8月放送)だった。
同番組の制作を手がけ、このほど『告白』を上梓した旗手啓介氏は、事件当時中学3年生。1993年5月4日、カンボジア北西部アンピルで日本人警察官一行が銃撃され、岡山県警の高田晴行警部補(当時33)が死亡したとの報道も、「何となく憶えている程度」だったという。
だが縁あって山崎裕人・元日本文民警察隊長と出会い、元隊員の消息を訪ね歩くと、あの日の記憶は彼らの間ですら封印されたままだった。ある隊員は言う。〈自分たちにとっては二十三年経っても、昨日の出来事〉だと。
「端緒はある人に山崎隊長を紹介されたことでした。山崎氏は、当時の隊員たちや、国連、日本政府とのやりとりを詳細に記録した日記などをもとに『総括報告』と題した一冊の文書をまとめていて、このままでは高田さんの事件が人々の記憶から消え、歴史の闇に埋もれてしまうという憤りから提供を申し出てくれた。
実は他の元隊員の方々も当時のことは誰にも話せずにいたらしく、隊員同士ですら共有してこなかった事実を繋ぎ合わせることが、僕らの仕事だと思いました」
幸い素材は山ほどあった。山崎は常々、〈初めての警察分野における人的国際貢献に参加した者として〉記録を残す責任を説いており、本書では各隊員の日記やビデオ録画の未公開映像を元に事件の真相を具(つぶさ)に検証。また、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の明石康代表や河野洋平官房長官ら、ともすれば悪役にされかねない側からも率直な本音を引き出している。