歴史は勝者によって作られる。我々はそれを知っているはずなのだが、「明治維新」と聞くと思考停止してしまうようだ。維新から今年で150年。著書に『明治維新という幻想』がある森田健司氏がこれまでタブーとされてきた歴史の真実を暴く。
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戊辰戦争期の江戸庶民の胸中を知るには、当時発行された「諷刺錦絵」を調べるのが一番である。江戸時代、庶民が社会に対する批判を表立ってするのは大変危険だった。すぐに捕縛され、命を奪われる可能性があった。そこで彼らが熱中したのが「判じ絵」である。作者が文字や絵にある意味を隠し、それを当てられるようにした絵だ。戊辰戦争期には、判じ絵として描かれた諷刺錦絵が数多く発行された。
見てすぐに気づくのが、新政府軍は江戸庶民にまったく人気がなかったことだ。会津藩は江戸庶民の味方とする諷刺錦絵が多く残されており、“必ずや新政府軍を滅ぼしてくれる”というものばかりだ。一方、幕府は潰れてしまえという諷刺錦絵は一枚もない。
背景には、江戸に入った新政府軍が増長し、何の罪もない町民に言いがかりをつけて斬殺するなど、傍若無人な行動を繰り返したことがある。そのため江戸庶民は彼らを憎み嫌ったのだ。
ここでは諷刺錦絵「東京雨天のつれづれ」を見てみよう。
この二枚組の錦絵には、雨粒の落ちる中、番傘を持った11人の男性が喧嘩をしている様子が描かれている。傘がある程度以上破れてしまうと、その傘の主は「負け」というルールのようである。完全に負けてしまっているのは、右下と左下にいる男性二人だ。